【第8則】
八 奚仲造車
月庵和尚問僧、奚仲造車一百輻。拈却兩頭、去却輻、明甚麼邊事。
無門曰、若也直下明得、眼、似流星、機、如掣電。
頌曰
機輪轉處 達者猶迷
四維上下 南北東西
八 奚仲(けいちゅう)、車を造る
月庵(げったん)和尚、僧問う、「奚仲、車を造ること一百輻(ぷく)。両頭を拈却(ねんきゃく)し、輻を去却(こきゃく)して、甚麼辺(なにへん)の事を明らむ」
無門曰く、「若し也(ま)た直下(じきげ)に明らめ得ば、眼(まなこ)、流星に似、機、掣電(せいでん)の如くならん」。
頌に曰く
機輪(きりん)転ずるところ、達者も猶(な)お迷う。
四維上下(しいじょうげ)、南北東西。
「「奚仲という車作りの名人は百台もの車を造ったうえで、車輪と車軸を取り外してしまった。ナゼ?」
「中島敦の短編『名人伝』を思い出す」
「弓矢自慢の男が矢を射ずに鳥を射落とす仙人に弟子入りして、ついに神技に達するハナシね」
「もう弓矢も不要になって、鳥も盗賊も男の”気”を感じ取って近寄らなくなる。晩年には弓矢を手にとっても”これは何に使う道具でしたかな?”と、ひとに 聞くほどの境地になる。ボケたわけじゃないよ」
「中国的なホラ話、という気がする」
「でも公案だからね」
「けど、あんまりマジメに考えない方が楽しいかもよ」
『素朴な琴』 八木重吉
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかね
琴はしずかに鳴りいだすだろう
1998/11/25