【第25則】


    二十五 三座説法

仰山和尚、夢見往彌勒所、安第三座。有一尊者、白槌云、今日當第三座説法。山乃起白槌云、摩訶衍法離四句、絶百非。諦聽、諦聽。
無門曰、且道、是説法不説法、開口即失、閉口又喪。不開不閉、十万八千。

    頌曰
  白日晴天 夢中説夢
  捏怪捏怪 誑謼一衆

  二十五 三座(さんぞ)の説法

仰山(ぎょうざん)和尚、夢に弥勒の所に往(ゆ)いて、第三座に安ぜらるるを見る。
一尊者有り、白槌(びゃくつい)して云く、「今日第三座の説法に当たる」。
山乃ち起って白槌して云く、「摩訶衍(まかえん)の法は、四句を離れ百非(ひゃっぴ)を絶す。諦聴(たいちょう)、諦聴」。
無門曰く、「且らく道え、是れ説法するか、説法せざるか。口を開けば即ち失し、口を閉ずれば又た喪す。開かず閉じざるも、十万八千」。

    頌に曰く
白日晴天、夢中に夢を説く
捏怪(ねっかい)捏怪、一衆を誑謼(おうこ)す。



「仰山和尚の夢のハナシ。兜率天の弥勒ボサツんとこへ行ったら、空席だった第三座に和尚は案内された。エラそうなひとが槌を打って、『今日の説法は第三座の番だよ----』という。和尚は立ち上がって槌を打っていった。『おいでみなさん聞いとくれ。大乗のほんとのところを示すのに、コトバなんてなんの役にもたちゃしない、ってこと』

頌っていうには、『みんな白日晴天の下にいるのに、夢のなかで夢を見たよなハナシをするとは。和尚さん、キッカイ、キッカイ。ダマされへんよ』」

「席はないよ!席はないよ!」アリスがやってくるのを見ると彼らは大声で叫びました。アリスはふんがいして、「席はたっぷりあるじゃない!」といいながら、テーブルの片はしの大きなひじかけ椅子に腰をおろしました。
「ぶどう酒はどうかね」と三月ウサギがまんざらぶあいそうでもない声でいいました。
アリスはテーブルをぐるっと見まわしましたが、お茶のほかにはなにもありません。「ぶどう酒なんか見あたらないじゃない?」
「ぶどう酒なんかありゃしないさ」と三月ウサギがいいました。
「だったら、ないものをすすめるなんて、少し失礼じゃなくって?」アリスは怒っていいました。
「まねかれもしないのに腰をおろすなんてのも、いささか失礼じゃないかね」と三月ウサギがいいました。
「あなたたちだけのテーブルだって、知らなかったわ」とアリスはいいました。「三人ぶんよりもずっとおおぜいのお茶の用意がしてあるんですもの」

         L.キャロル『不思議の国のアリス』(高橋康也訳)



  『カジノ』  W.H.オーデン

生きているのは手だけだ。シカが小川を求めて
砂漠の砂と灌木のなかをがむしゃらに移動するように、
あるいはヒマワリが静かに光に向くように、
ルーレットに引き寄せられて、手が動く。


そして、熱にうなされる子の泣き声、檻のなかの
ライオンの渇仰、大学教師の恋愛沙汰を、夜が
吸いあげ、まとめあげ、なお夜のままでいるとき、
この会堂にはひとびとの祈りが充満する。


かれらは、究極の孤立の饗宴に、招かれることなく
みずから群がり、不信の儀式に参加している。
数字ですべての運命が作り変えられる。
有頂天の者、欲深い者、悲しむ者。


外では、全身で生きている者たちの逢い引きの場を
静かな川がうねって流れ、やがて山が
ふたりを分けへだて、夏の緑と霧のなか深く
小鳥が鳴いてそれぞれの仕事に向かわせるが、


ここでは、どんな若い羊飼いにも、裸身のニンフは
近寄ってこない、泉は涸れ、月桂樹は生えない。
この迷宮は、安全だが、どこにも出口はない。
アドリアネの糸は切れてしまっている。


かれらの手には運命がさらに深く刻まれる ------
「ついていた者はほとんどなかった。おそらく
だれひとり愛されなかった。この時代に
神秘に近いことは生まれるはずもなかった」


           (沢崎順之助 訳)



   1998/12/28


二十六【二僧卷簾】


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Last-modified: 2021-01-31 (日) 12:03:00