Poetry in Movies

【映画の中の詩】『剃刀の刃』(1946)



「僕は今でも、髪に蝶形リボンを結んで、生真面目な顔をしてさ、キーツの詩を読むと、それがとても美しいんで涙で声を震わせていた、痩せっぽちの小娘を、目のあたりに見ることができるよ。今いったいあの人はどこに住んでいるんだろう」

エドマンド・グールディング監督。サマセット・モーム原作。

グールディング監督は『グランド・ホテル』(1932)で有名ですが作曲もこなす才人。 ダンスシーンの伴奏曲「Mam'selle」はさまざまなアーティストにとりあげられてスタンダードナンバーとなっています。

主人公ラリー(タイロン・パワー)の詩を愛する幼友達だったソフィー(アン・バクスター)は不幸が重なり酒に溺れ、最後には何者かに惨殺されてしまいます。

ラリーは彼女の部屋の遺品の中にキーツの詩集を見つけ、彼女との思い出の『あの日は去った The day is gone』を朗読します。

  キーツ『あの日は去った』(出口泰生 訳)


あの日は去った。甘美なものすべては去った。
あまい声 あまい唇 柔らかな手 柔らかな胸
暖かな息 軽いささやき やさしい歌ごえ
輝く瞳 かたちよい姿 ほっそりとしたあの腰。
花も 蕾のきりょうも みな色あせた。
ぼくの目から 美しい姿が 色あせた。
ばくの腕から 美しい姿が 色あせた。
あの声 あの暖かさ あの白さ あの天国も。


まだそんな時でもないのに タベが来て 消え去った。


『キーツ詩集 (世界の詩 ; 33)』出口泰生 訳
https://dl.ndl.go.jp/pid/1672758/1/49

アン・バクスターはこの零落してゆく女性の演技でアカデミー助演女優賞を受賞しています。

参考リンク:

   剃刀の鋭き刃は 渡るに難し
   賢者の曰く
   救済への道 亦かくの如く難しと
       (カタウパニシャド)

『剃刀の刃』サマセット・モーム著,斎藤三夫訳
https://dl.ndl.go.jp/pid/1698042/1/7



Tag: 映画の中の詩


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Last-modified: 2024-01-11 (木) 01:20:07