<昔詩(十代のノートから) 1976~1978>


  Ⅰ


  誕生日


木もれ陽の底で泣いている
ひとりの少女
地面から湧き出てきたように
ただうずくまって泣いている

くらやみをくぐりぬけてきて
この世では
まぶしいものばかりと出会うのだ

ふるえる黒髪は
産声をあげている

真冬のかたくなな地面の下
少女の母親が
昔のメロディを想い出した


   Ⅱ


  残像


だれか私の背中に顔をうずめる人がいる
だが海を越えてきた私の優しさは
もはやそれを咎めることをしない-----

  「夏の日 ニューヨークの街角で
  東京のビル街 ペニイ・レインの安全地帯で
  少女の手を離れた白い風船は高さだけを求めて
  人々の心の扉を舞い上がっていった」

そして闇よ 光を閉ざすことをするな
許された女のため
たったひとつの光に照らされるには
あまりに若い彼女のために
そして あなたよ
やがて時が流れ
商店街の雑踏を通り過ぎ 藁葺き屋根を越え
高速道路の車と競争しながら
山を越え
川を越え
海を越えた白い風船があなたの手に落ちてきたとしても
共に暮らす彼女のため
あなたは部屋の明かりを
そっと消してやることが出来る


   Ⅲ


  失題


女は
うつむけ
上目づかいに
未来を見る
すこし現れ
すこし隠す
指の謎のようには
櫛を入れることなく
木漏れ陽を映せ

  「男なんて太陽じゃない
  私ののぞくおもちゃ
  の万華鏡にすぎない
  太陽のかけらに注がれた
  ガラスの粉末にすぎない  この頃
  ファウストを導くサタン
  のことを考える」

暗闇にひとつの塔をたてろ
窓に首を吊った男の指から青い糸が垂れ
世界はまた一回転する
むきかけの果実のように
鮮やかに黒い女の歯がゆっくりと
それを咀嚼する
あこがれ
が喉につまる------

三千年も先に吐き出してしまう


   Ⅳ


  せんちめんたる


生まれてから出会った
あまたの青空の記憶が
ふいにひとつになった
ぼくの瞳は透明になって
おとろえた夏の青空を
飛翔する

むずかしい本をわすれ
青空を探検することにした冬の日
かたい土の中に
ぼくの感傷を封じ込める
 ・・・・・・
封じ込んだ!


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Last-modified: 2021-01-31 (日) 04:38:00