愛の症状別言語療法【書きコトバ篇】
    ・・・幻堕医師の処方箋・・・


さて若者なら自分で手軽に文句を患部につけるだけで治療も終わるが年輩者のように多年書きなぐるコトバの暴力にさらされて、書き付けるだけでは治らない時は枕詞に頭を乗せてから悪い血はコトバの注射器でさっさと書き抜き、出血を書き留められるようになったら言葉救急隊員も一人前だ。患者を書き起こしたらベッドに座らせ、落ち着いたら食事を書取らせよう。引用のバランスには留意すること。出されたコトバは書き残しのないようにと年輩の患者は教育されているだろうが、無理をしたら書き下してしまうので腹八分目を心がけさせる。終わったら隠喩を飲ますのをわすれないこと。入院時には約束を係り結ばせ、ルール違反は連体責任とする。もちろん巳然に防げればそれに越したことはない。お見舞いをもってゆくなら、殺風景な病室に飾る詞華集がよろしかろう。少し元気になったら谷川俊太郎の「ことばあそびうた」を勧めたい。はなののののはなは水につけておきさえすれば、意味づける必要はないからだ。枯れないうちに書き換える方がいいが、まちがっても田村隆一の「言葉のない世界」などもってゆかぬように。コトバを意味でわるかわりにウイスキーを水でわることを勧めるのは、もっと回復してからだ。長話はほどほどにしないと朗読を食らわば皿までで、ついエスカレートしてしまうものだ。頃合いを見計らって書き上げよう。リハビリには永瀬清子の「焔について」に付き添ってもらう。あせって熱を入れすぎると「私の一瞥であなたの批評を止めさせたい」と言われるかも。西脇順三郎院長のお許しがでたら「旅人かえらず」、と書き置きを残して書き流す涙も拭わず人波を書き分け書き方に向かって書き出そうではないか!


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Last-modified: 2021-01-31 (日) 04:38:00