不思議の国のルイス・キャロル〜「アリス」を生んだ数学者〜

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不思議の国のルイス・キャロル〜「アリス」を生んだ数学者〜(NHK「知への旅」1998_5_8)
00.jpg1997年。英国BBC制作
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ハーグリーヴズ夫人(アリス・リデル)

「アリスのモデルはあなたなのですか?」


アリス・リデル(ハーグリーヴズ)のインタビュー映像にまず驚き。これがアリスのモデルか…。(おばあさんだけど)
1.jpg聖書に次ぐベストセラーと言われる『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の著者、ルイス・キャロル---本名チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン。英国オックスフォード大学の数学教師というメルヘンとは対照的な世界に属していたが、じつは彼自身も「不思議の国」の住人だった。
2.jpgアーチスト。グレアム・オーブンデン。
「思春期の少女はどこかふしぎな生きものです」
「アリスは大人からみた少女の魅力が凝縮されています。彼女はまさしく夢の少女…」
3.jpg「キャロルはおとぎ話のアリスを通じて、少女だけがもつふしぎな世界を描き出すのに成功しました。
少女自身でさえはっきりと理解できない、そして大人の女性にはない特別な何かが、ある限られた子供時代の女の子にだけ存在するのです」
4.jpg「数学者としてのドジソンはきわめて型にはまった人物でした。つねにフォーマルな装いをし、どんなに暑い日でもシルクハットと手袋を手放しませんでした。つまり慣習を重んじる古いタイプの人間だったのです」
5.jpg「オックスフォードの特別研究員といえば結婚もせず寮に住まい、一生を学問研究に費やす堅物揃いでした。大学の古めかしい空気になじんだ有能な数学者。それが彼の現実世界での顔でした」
「彼がおとぎ話に描いたウサギの穴は失われた過去、現実のじぶんではないところへ降りてゆくための比喩的な手段…そこは彼自身が転がりこみたい場所でした」
6.jpg「(キャロルには十人の兄弟姉妹---姉二人妹五人弟三人---がいたが)結婚したのは二、三人でした」
「兄弟だけでまとまった子供たちの世界には他人のはいる余地さえないほどでした」
7.jpg映像作家、ジョナサン・ミラー。
「私は演出家としてアリスの物語がかもし出す独特の暗さに興味をそそられます。十九世紀には中世のゴシック建築がリバイバルしましたが、この作品はまさにゴシック様式を思わせます」
8.jpg「彼は時が止まっような大学に学者や聖職者たちがうごめくのを眺めつづけていたんです。アリスの登場者は大半が動物ですが、それは大人たちのニックネームかもしれません。大人とはどういう生きものか、大人になるとはどういうことかを彼は少女の目を通して描いたのです」
9.jpg「彼は二十歳そこそこで特別研究員に選ばれ、数学者となりますが、淡々とした大学生活のなかにある日思いがけない楽しみを見いだしました。学寮長の三人の娘たちと親しくなったのです」
アーチスト、ラルフ・シュテットマン。
「彼は目の前の少女たちから子供独特の俊敏なこころのはたらきをつかみとりました」
「彼は子供たちの反応を見、もっとも新鮮な部分を拾いあげたんだと思います。ですから少女に語って聞かせ、驚かしたり、好奇心をそそったりすることは彼の創作活動の重要な一部分だったはずです」
10.jpg「ルイス・キャロルがドラッグをやっていたという説があります。それはアリスの迷い込む世界があまりにも狂気に近いからです。でも彼の実像からはドラッグとの接点は見いだせません」
11.jpg「テニエルの描いたアリスはじめじめしたゴシック様式の暗さを反映しています。それはかわいいだけでない手ごわい少女のイメージです」
12.jpg「それまで子供は甘く感傷的に描かれがちでした。けれどもアリスははっきりと意志を通し、どんなばかげたことにも危険にもひるみません。ああいう少女は子供向けの本においてははじめてでした。芯の強さこそアリスの根強い人気の秘密でしょう」
13.jpg「ルイス・キャロルのアリス・リデルに対する視線は彼女を撮った何枚もの写真にあらわれています。それらを見るとアリス・リデルという少女が彼の前でどんなに魅力的な表情をみせたかを知ることができます。彼はさまざまな方法でアリスの魅力を写し撮ろうとし、アリスもまた被写体として積極的に応じています。カメラのレンズを通してルイスとアリスのあいだには年齢の垣根をこえたきずなが生まれたと思います」
14.jpg「物語のアリスのほうは実在のアリスのポートレートではありません。ルイス、つまりドジソンの心の内面がブレンドされているのです。ですから主人公は一種奇妙な子供の怪物です。それは子供と大人による架空の融合、抽象的な意味での<結婚>なのかもしれません」
15.jpg「子供の行く末には二通りあり、ひとつは病によって死す運命です。もうひとつは大人になる運命。これなども子供時代から引きはがされる意味では十分に過酷と言えるでしょう」
16.jpg「ルイスの写真は繊細な感受性で少女の世界を切り取っています。しかし、作品にヌードが含まれていたことが、のちのち議論をよびました」
17.jpg「作者ルイス・キャロルの謎を考えるとき、不思議の国をさまようアリスはよりいっそう秘密めいた不可解なヒロインにうつるでしょう」
18.jpg「『不思議の国のアリス』が出版された1865年にはアリス・リデルとルイスの交流はほとんどなくなっていました。その理由もまた判然とはしません」
伝記作家、マイケル・ベイクウェル。
「ルイス・キャロルとアリス・リデルの離別は文学史における謎のひとつです」
19.jpg「あきらかに関係は突然断ち切られました」
20.jpg「その原因は破られたページに綴られ、それはきっと親族が公にしたくないようなことだったのでしょう」
キャロルの日記。キャロルの死後、姪や甥たちによって一部のページが破棄されている。
21.jpg「彼は十八年間夏の休暇をイングランド南東部の海辺で過ごしました。休みの終わり、彼はその夏に出会った小さな友達を列挙しました。七歳、八歳、十二歳などの少女です。まったくいなかったときは『悪い年だった』と書かれています。そうした少女のリストを見ると、なにか蝶の蒐集家にも似た性格を感じます」
22.jpg「ルイスは鏡の国でじぶん自身を白の騎士として描いています。そして白の騎士はアリスと別れのあいさつを交わします。その場面はじつに寂しげで今や二十歳となったアリス・リデルとの決別を匂わせています」
23.jpg「その後、二冊のアリスの物語は何度となく美術や演劇、映画の題材に取りあげられ、そのたびに人々の心に深く根を下ろしてゆくのです」
24.jpg「ルイス・キャロルは1898年、65歳で亡くなりした。今年(1998年)は彼の没後百年にあたります」
25.jpg<制作> BBC(イギリス)
<日本語版> ナレーター:叶木翔子 声の出演:石波義人 小島敏彦 小林優子 他

Tag: ルイス・キャロル