#author("2021-01-25T05:06:23+01:00","","") #author("2021-01-25T05:08:53+01:00","","") #menu(Anthology/Poems) [[Poems]] -Poems > 夜中に台所でぼくは谷川さんに話しかけたかった &br; 十六歳の感傷に腰掛けて ぼくは詩を書き始めた ぼくの孤独といえば せいぜいコップ一杯分の涙ほどしかなかったけれど 二十億光年の彼方の星からの引力で コップの水が波立つことを幻想するのだった &br; 十六歳の感受性の扉は あけてもあけても無限に続いているようで めまいを覚えながら ノートのなかに扉の鍵をしまう毎日だった &br; ところが ある夏の昼下がり いつものようにノートを開けたぼくは たいせつな鍵をなくしてしまっていることに気づいた &br; あれ以来 鍵を探し続けて過去の町々を放浪したぼくは いつしか大人というものとなり いまでは海の見える透明な駅で遺失物係となって 業務日誌をつけているのだった &br; いつか かなしみにくれた少年が 扉を開けて入ってくるのを待ち焦がれながら・・・・ &br;&br;