追悼・田村隆一
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[[Essays]]
> 四千の日と夜 田村隆一&br;
一篇の詩が生れるためには、
われわれは殺さなければならない
多くのものを殺さなければならない
多くの愛するものを射殺し、暗殺し、毒殺するのだ
&br;
見よ、
四千の日と夜の空から
一羽の小鳥のふるえる舌がほしいばかりに、
四千の夜の沈黙と四千の日の逆光線を
われわれは射殺した
&br;
聴け、
雨のふるあらゆる都市、鎔鉱炉、
真夏の波止場と炭坑から
たったひとりの飢えた子供の涙がいるばかりに、
四千の日の愛と四千の夜の憐みを
われわれは暗殺した
&br;
記憶せよ、
われわれの眼に見えざるものを見、
われわれの耳に聴えざるものを聴く
一匹の野良犬の恐怖がほしいばかりに、
四千の夜の想像力と四千の日のつめたい記憶を
われわれは毒殺した
&br;
一篇の詩を生むためには、
われわれはいとしいものを殺さなければならない
これは死者を甦らせるただひとつの道であり、
われわれはその道を行かなければならない
&br;
''<戦後詩を代表する詩人の田村隆一(たむら・りゅういち)...
&br;
田村隆一の詩を初めて読んだのは高校生のころだ。直接にでは...
&br;
> 不意に
歓喜と絶望とが 精神と情熱と 自由と必然と 死と肉欲とが彼...
君臨する
お母さん! 私の文明が襲撃されている!
(「...
&br;
おお、カッコエー!というのが第一印象だった。
&br;
>保谷はいま
秋のなかにある ぼくはいま
悲惨のなかにある
(「保谷」)
&br;
当時、ぼくは西脇順三郎の詩と詩論に惹かれていたが、同時に...
そして西脇の方法論と谷川の感性を統合するような存在として...
&br;
>窓のない部屋があるように
心の世界には部屋のない窓がある
(「Nu」)
&br;
などというあからさまな詩的思考の連続は、マネをするにも都...
とうぜんそんなレトリックばかりに気を取られていたので
&br;
>言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きていたら
どんなによかったか
(「帰途」)
&br;
などという詩句の深い意味には思い至るはずもなかったのであ...
&br;
>言葉のない世界を発見するのだ 言葉をつかって
真昼の球体を 正午の詩を
おれは垂直的人間
おれは水平的人間にとどまるわけにはいかない
&br;
(「言葉のない世界」)
&br;
その後ぼくは“垂直的”な詩を息苦しく感じるようになってしま...
&br;
>わたしの屍体を地に寝かすな
おまえたちの死は
地に休むことができない
わたしの屍体は
立棺のなかにおさめて
直立させよ
(「立棺」)
&br;
それから十数年、最近になって詩を書き始め、昔読んだ詩集を...
&br;
>君がもし
詩を書きたいなら ペンキ塗りの西武園をたたきつぶしてから...
詩で家を建てようと思うな 子供に玩具を買ってやろうと思う...
詩で 独占と戦おうと思うな
詩が防衛の手段であると思うな
詩が攻撃の武器であると思うな
なぜなら
詩は万人の私有
詩は万人の血と汗のもの 個人の血のリズム
万人が個人の労働で実現しようとしているもの
詩は十月の午後
詩は一本の草 一つの石
詩は家
詩は子供の玩具
詩は 表現を変えるなら 人間の魂 名づけがたい物質 必敗...
いかなる条件
いかなる時と場合といえども
詩は手段とはならぬ
君 間違えるな
(「西武園...
&br;
これらのホンモノの詩に、十代のこれから感受性の扉を開こう...
&br;
田村さん、ありがとう。
さようなら。
&br;
(初出:1998.8 @...
#ref(tamura.jpg)
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> 四千の日と夜 田村隆一&br;
一篇の詩が生れるためには、
われわれは殺さなければならない
多くのものを殺さなければならない
多くの愛するものを射殺し、暗殺し、毒殺するのだ
&br;
見よ、
四千の日と夜の空から
一羽の小鳥のふるえる舌がほしいばかりに、
四千の夜の沈黙と四千の日の逆光線を
われわれは射殺した
&br;
聴け、
雨のふるあらゆる都市、鎔鉱炉、
真夏の波止場と炭坑から
たったひとりの飢えた子供の涙がいるばかりに、
四千の日の愛と四千の夜の憐みを
われわれは暗殺した
&br;
記憶せよ、
われわれの眼に見えざるものを見、
われわれの耳に聴えざるものを聴く
一匹の野良犬の恐怖がほしいばかりに、
四千の夜の想像力と四千の日のつめたい記憶を
われわれは毒殺した
&br;
一篇の詩を生むためには、
われわれはいとしいものを殺さなければならない
これは死者を甦らせるただひとつの道であり、
われわれはその道を行かなければならない
&br;
''<戦後詩を代表する詩人の田村隆一(たむら・りゅういち)...
&br;
田村隆一の詩を初めて読んだのは高校生のころだ。直接にでは...
&br;
> 不意に
歓喜と絶望とが 精神と情熱と 自由と必然と 死と肉欲とが彼...
君臨する
お母さん! 私の文明が襲撃されている!
(「...
&br;
おお、カッコエー!というのが第一印象だった。
&br;
>保谷はいま
秋のなかにある ぼくはいま
悲惨のなかにある
(「保谷」)
&br;
当時、ぼくは西脇順三郎の詩と詩論に惹かれていたが、同時に...
そして西脇の方法論と谷川の感性を統合するような存在として...
&br;
>窓のない部屋があるように
心の世界には部屋のない窓がある
(「Nu」)
&br;
などというあからさまな詩的思考の連続は、マネをするにも都...
とうぜんそんなレトリックばかりに気を取られていたので
&br;
>言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きていたら
どんなによかったか
(「帰途」)
&br;
などという詩句の深い意味には思い至るはずもなかったのであ...
&br;
>言葉のない世界を発見するのだ 言葉をつかって
真昼の球体を 正午の詩を
おれは垂直的人間
おれは水平的人間にとどまるわけにはいかない
&br;
(「言葉のない世界」)
&br;
その後ぼくは“垂直的”な詩を息苦しく感じるようになってしま...
&br;
>わたしの屍体を地に寝かすな
おまえたちの死は
地に休むことができない
わたしの屍体は
立棺のなかにおさめて
直立させよ
(「立棺」)
&br;
それから十数年、最近になって詩を書き始め、昔読んだ詩集を...
&br;
>君がもし
詩を書きたいなら ペンキ塗りの西武園をたたきつぶしてから...
詩で家を建てようと思うな 子供に玩具を買ってやろうと思う...
詩で 独占と戦おうと思うな
詩が防衛の手段であると思うな
詩が攻撃の武器であると思うな
なぜなら
詩は万人の私有
詩は万人の血と汗のもの 個人の血のリズム
万人が個人の労働で実現しようとしているもの
詩は十月の午後
詩は一本の草 一つの石
詩は家
詩は子供の玩具
詩は 表現を変えるなら 人間の魂 名づけがたい物質 必敗...
いかなる条件
いかなる時と場合といえども
詩は手段とはならぬ
君 間違えるな
(「西武園...
&br;
これらのホンモノの詩に、十代のこれから感受性の扉を開こう...
&br;
田村さん、ありがとう。
さようなら。
&br;
(初出:1998.8 @...
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