#author("2022-12-26T00:21:24+09:00;2022-12-26T00:17:33+09:00","default:minoru","minoru") #author("2022-12-26T00:22:21+09:00;2022-12-26T00:17:33+09:00","default:minoru","minoru") #menu(Anthology/Poems) -Poems > 現代詩百年の孤独 &br; わたしのいきつけの書店ではもう何年も前から「現代詩手帖」なんか店頭在庫していない。現代詩はもう「お取り寄せ」の詩になってしまった &br; と嘆いたのは十年以上前のことだが 今はこれでよかったのだと思っている &br; <新聞とかいうメディア、月5,000円も払って昨日のニュースが紙で届くってやばいな> というtwitterの投稿に笑ってしまったことがあったが 笑い事じゃない 現代詩はもっとやばい 新聞が新聞と名乗って「違うじゃないか」と笑われているのに お取り寄せした「現代」に閉じこもっている詩人たちはコトバ コトバコトバとコトバへの愛ゆえに挙動不審にわたしには見える &br; ココロの焦点を現代に合わせないで現代詩人であろうとすることは さぞかし不安なことでしょう &br; insta-poetというのがあるそうで、ルピ・クーアという「インスタ詩人」は200万人というインスタグラムのフォロワーを持ち、新作詩集のプロモーションツアー(!) を行えば会場は満員になる、というネット記事を読んだことがある &br; 彼女の詩に対する評価は賛否両論ということだそうだ が常に現代人の目にさらされているという意味では 現代詩人であるということ そう わたしのような年寄りにはまぶしすぎる 現代 &br; 現代詩とそうじゃない詩とはどうちがうの、とか 詩とポエムはなにがちがうの、とか 論争していたころがなつかしい &br; ポエムをひっくりかえせば詩になるんだよ &br; 窓のない部屋 &br; と書けばポエムだけど、ひっくりかえして &br; 部屋のない窓 &br; と書けば詩になるんだよ 田村隆一は &br; 窓のない部屋があるように 心の世界には部屋のない窓がある (「Nu」) &br; と書いた。そして &br; もうこれまでに いったいなんど白い紙に ぼくは署名してきたのだ? &br; と問いかけ &br; ちいさなものあのちいさな白い紙 言語の細い線暗い海峡一篇の詩のそのすぐ あとに &br; と書いた彼の最後の詩集はその死を受けて 出版社は現代詩人の詩集としては 異例の多さの3000部の増刷を決めた、という記事を見た &br; 異例の3000部 &br; ホリエモンは ぼくは初版30000部以下だったら その仕事は断りますよ そして なぜ失敗をはずかしがるのか 失敗しても誰もあなたのことなんか知らないんだから やれ! と言っていた &br; 誰も見ていなくても自分が見ている と思ってしまうヘンなひとたち ヘンじゃなければ詩なんて書こうと思わない &br; ヘンな人たちよ 見えるものも見たまえ 聞こえるものを聞きたまえ そしたらそれをひっくり返すんだ おれは一人の他者である と言って哄笑したあの少年のように &br; ある女性詩人から あなたの書くものは他人の言葉の引用ばかりで自分自身の言葉がない と非難されたことがある それに対して &br; 書くことは、常に、再び書くことであるから、それは、引用することと同じである &br; とアントワーヌ・コンパニョンは言ってるよ と返したらすっかりケーベツされてしまった &br; じぶんじしんのコトバとは? &br; わたしは何か思いついても これはきっと誰かが同じことをもっとうまい言い方で前に言っているに違いない と思うので探しまわり見つけ出しそっちを引用する &br; じぶんのコトバを消し じぶんの名前を消し じぶんじしんを消す のがわたしにとっての詩の効用である &br; むかし まだインターネットではなく パソコン通信をはじめたころ 現代詩フォーラムというあつまりをのぞいたら 現代詩とはなにか とヘンなひとたちが議論していた 百家争鳴 決着はつかず もう現代詩手帖に載ってるような詩が現代詩 という意見まで出た &br; だが つまらない現代 に適応するためには つまらない人間に ならなければならない &br; だとすれば お取り寄せするのではなく つたなくともじぶんの好きな時代を 現代と思い定めて 手直しして生き返らせればいい と考えた &br; ああ わたしの現代は1930年ごろかなあ &br; わたしという古い名詞 が詩人達によって 覆された宝石のように輝きを放った1930年代 &br; 左川ちかは 純粋な思惟 と書いた 純粋な思惟! 純粋なものへの憧憬と美のために私はこれらの詩を書いた と中村千尾は堂々と言った &br; いたましくも美しい そんな時代 &br; 消えゆく 孤独な百年 わたしの現代 &br; (2022/12/26)