#author("2021-01-24T03:23:09+01:00","","") [[Poems]] #menu(Poems) #author("2021-01-25T17:50:36+01:00","","") #menu(Anthology/Poems) -Poems > ゲームの規則 &br; シルクハットを鏡のなかに投げ入れると 鏡のなかのじぶんが投げ返してくる&br; さみしい 中年詩人の ひとり遊び&br; ある朝 いつものように あいさつがわりに シルクハットを鏡のなかに投げ入れると 鏡のなかの詩人が ひょいと それを アタマに置いて 鏡のなかの部屋のドアを開けて出ていってしまった&br; 詩人は そいつを追っかけて あわてて鏡のなかに 飛び込んだ その途端 詩人は けむりになって 消えてしまった・・・&br; <どうしたものかしら> と少女はじぶんのすがたがすっかり映るほどの 大きな鏡に息をはきかけては 何度も拭いながらつぶやいた いくら磨いても 鏡はまるで 内側から白いけむりがかかったように曇ったままなのだ しかも 街じゅうの鏡という鏡が こんなふうに みんな曇ってしまっているという <おねえさんたちは 窓ガラスやショーウィンドウ コップや公園の池の水も覗き込んだけれど みんな白いけむりがかかったようで だれもじぶんのすがたをみることはできなかったんだって> <白雪姫は> と少女は考える <これでイジメられなくなるだろう ナルキッソスも 水仙にならずにすむじゃない だいいち そんなお話はみんな書き換えなければならなくなるだろうな>&br; ――― そうはいかないんだよ という声に 少女は驚いて振り返った 机のうえに一冊の本が開いたまま置かれている 風に吹かれて ページがめくられていく そのページとページの隙間から声は聞こえてくるらしい ――― 勝手にお話を書き換えられちゃあ わたしらの商売あがったりなんでね&br; <なんなの!> と少女は恐ろしさと気味悪さで おもわず本をつかむと壁にむかって投げつけた 本はすこしそれると 鏡にあたって床に落ち 鏡には大きなヒビが入ってしまった&br; すると そのヒビ割れから 白いけむりが抜け出てきたと見る間もなく ひとりの中年の紳士が 少女の前に立っていた&br; ――― やあ どうも こいつを 詩人は ひょいと シルクハットをアタマに置き ――― やっと とりかえせたんでね というと ドアを開けて外に出ていってしまった&br; 少女は急いで本を拾い上げて開いた <あら この本は文字がぜんぶ裏返しじゃない> 本のどのページを開いても 文字の左右が逆に印刷されているのだった <どうやって読むか しってるわよ> というと少女は鏡に近づいて(曇りのとれた鏡は ぼうっ と光っていた)開いたページを映してみた <あれ あっちのページも裏返しだよ!> 鏡に映った文字もやっぱり左右が逆になっているのだった <この鏡ヘンじゃない> といいながら少女は鏡に手を触れようと右の手をあげて はっ とした 鏡の向こう側の少女も同じ右の手を差し出してきたのだ <こんなことってないわ! あなたはいったい・・・> だれ? と問いかけたその瞬間 少女はけむりになってしまった&br; そのころ 鏡の向こう側では……&br; <どうしたものかしら> と少女はじぶんのすがたがすっかり映るほどの 大きな鏡に息をはきかけては 何度も拭いながらつぶやいていた &br;