#author("2024-01-12T11:50:28+09:00;2024-01-11T01:47:59+09:00","default:minoru","minoru") #author("2024-01-14T03:25:40+09:00;2024-01-11T01:47:59+09:00","default:minoru","minoru") [[Poetry in Movies]] #menu(Poetry in Movies) *【映画の中の詩】『欲望という名の電車』(1951) &br;&br; CENTER:#htmlinsert(youtube.htm,id=qkiyAyldGJQ) >「欲望」という名の電車に乗って >「墓場」という電車に乗り換え > 六つ目の角まで行くように言われたんです >「極楽」に着いたら降りるようにと―― エリア・カザン監督。原作はテネシー・ウィリアムズの同名戯曲。 主演ヴィヴィアン・リー、マーロン・ブランド。 南部の裕福な名家に生まれ職業は高校教師という未亡人ブランチ(ヴィヴィアン・リー)と粗野で暴力的な貧しい職工スタンリー(マーロン・ブランド)という分かりやすい対比。 もっともブランチの家は没落し、彼女自身も不行状(男と酒)が理由で教師の職を追われ、逃げるようにスタンリーの妻となっている妹を頼って、この街にやってきたのですが。 ブランチの正体を知らずに彼女に思いを寄せるミッチーとの場面。引用されるのはエリザベス・バレット・ブラウニングの『ポルトガル語からのソネット』の43番。 >エリザベス・ブラウニング『ポルトガル語からのソネット』#43(石井正之助訳) > 私は貴方をどのように愛していますでしようか、その方法を私に數えあげさせて下さい 私は貴方を私の魂の届き得る深さ、幅、 高さの極みまで愛します、眼に見える限りを越え 存在と理想の美との果てをさぐり求めてゆくときに。 私は貴方を日毎日毎の 最もつつましい必要をみたすものと同じように 愛します、陽の輝く晝も ともし火の輝く夜も。 私は貴方を誰にはばかる所なく愛します、正義のためにたたかう人々のように、 私は貴方を純粹に愛します、その人たちが賞讃から身を退(ひ)くように。 私は貴方を 昔の悲しみに耐えた熱情を以て、 幼い頃の信仰を以て愛します。 私が今までに失つた何人かの人と共になくしてしまつたと思われた愛を以て 私は貴方を愛します、――私は貴方を私の生涯の呼吸と、 微笑と、涙を以て愛します、――そしてもし神様がお決めになるのでしたら、 私はただ死んでから後により一層貴方を愛することにいたしましよう。 > 『十四行詩(ソネット)―ポルトガル語からの―』(石井正之助訳) 世界詩人全集 第3巻 河出書房 このシーン、ただロマンティックな雰囲気を出すだけのために詩が引用されているとは思えない。 テネシー・ウィリアムズはなぜブラウニングを引用したのだろう。 そしてなぜブランチはブラウニングを好きだと言ったのだろう。 それは同じく『ポルトガル語からのソネット』の別の知られた詩を暗に思い起こさせようとしているのではないだろうかと、ふと思ったのです。 >エリザベス・ブラウニング『ポルトガル語からのソネット』#14(石井正之助訳) > 貴方が私を愛さずにおられないのでしたら、それはただ 愛のためにのみそうであって欲しいのです。こうは仰言らないで 「私はあの人が好きだ、あの人の微笑みも好き、あの人の顏立ちも、あの人の 優しい話しぶりも、私のそれとよく調和する 氣の配り方も、そしていつぞやは本當に そのために心愉しい安らかな感じをうけたものだ。」などと―― なぜなら、いとしい方、これらのものはもしかしたらそれ自身で 變りもしましようし、或は貴方のために變ることもありましよう、――それにそうして作りあげられた愛は、 そのために破れることもありましようもの。また私を愛して下さいますな、 貴方の優しい憐れみのお心で私の濡れた頬をおふき下さるおつもりなら、 誰でも泣くことを忘れるかも知れません、貴方に長いこと 慰めていただきますと、そうしてそのために貴方の愛も失うのです。 > ただ何よりも愛のために私を愛して下さい、いつまでも、 貴方が愛し續けて下さるように、愛の永遠の世界を通じて。 > 『十四行詩(ソネット)―ポルトガル語からの―』(石井正之助訳) 世界詩人全集 第3巻 河出書房 エリザベス・ブラウニングとロバート・ブラウニング。文学史に残る詩人夫妻の恋愛物語ではあるが、エリザベスがロバートと結ばれた時には彼女は四十歳を越えており、しかも六歳年上だった。 その彼女が、顔立ちやしぐさが好ましいとか、また性格が合うからだとか、そんな理由のつけられる愛し方ではなくて、「ただ愛のためにのみ愛して欲しい」と訴えかける、ソネット14。 これはまさにブランチの願いそのものではないでしょうか。しかし、映画は残酷な結末を迎えます。 そのような永遠の愛などは望んでも得られるはずもなく、スタンリーにすべてを暴露されてミッチーは去り、ブランチは精神の均衡を失っていき、やがて崩壊してしまうのでした。 そして映画を離れて現実に戻った時、この映画で『風と共に去りぬ』に続いて二度目のアカデミー主演女優賞を受賞したヴィヴィアン・リーの演技はもちろん素晴らしいのですが、彼女自身が実際に苦しみ続けた心の病と重なってしまい、痛ましい思いを抱いてしまうことは避けられないのです。 参考リンク: [[『白い蘭』(1934)>The Barretts of Wimpole Street(1934)]] 【映画の中の詩】[[『白い蘭』(1934)>The Barretts of Wimpole Street(1934)]] https://dl.ndl.go.jp/pid/1335731/1/91 『十四行詩(ソネット)―ポルトガル語からの―』(石井正之助訳) 世界詩人全集 第3巻 河出書房 &br;&br; &tag(映画の中の詩);