Poems

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  ラッシュアワー


プラットホームに着いた 銀色列車のドアがひらいて 夏の海が溢れだしました

ピストルが鳴って 貌のないメッセンジャーが フリースタイルで泳いできます 燃えあがるピアノの上の老いた漁師は差し出された若い女の手相の迷宮に釣り糸を垂らし 籐椅子に座った猫は本を閉じたり開いたりします スロウモーションのハッピィ・ヴォイス も聞こえてきます
サーフボードには制服の少女がひとり横座り 浮きながらしだいに遠くなってゆきます
さっき少女はいちまいの瓶詰めの手紙をながしました

 「わたしはわたしを贈り物にしたくはない。わたしは獲得されたいのです」

それは 魂の宿る海のなかへ いくどとなく船出する 終わりない旅 くりかえし獲得されるための 美しい喜捨
これらはすべて やがては巨大な魚のような姿で浜辺にうちあげられ腐臭を放つ記憶の かけらたち・・・

一方 水平線の彼方 波乗りの島では雷火が立ち 港のシネマでは中国人俳優が二人
主人と従僕を入れ替わりながら演じ続けます
 
  (挿入歌)

  どうすりゃいい?
  ぼくは かぼちゃ がなによりすき
  どうすりゃいい?
  ぼくは にょうぼ がなによりきらい

  ”にょうぼ を かぼちゃ におしこんじまえ!”

  Peter, Peter, pumpkin eater,
  Had a wife and couldn't keep her;
  He put her in a pumpkin shell
  And there he kept her very well.   (*MOTHER GOOSE)

主人 「鏡はなぜ、袋小路なのか?」
従僕 「それはだんなさまが袋小路におられるからです」
(入れ替わって)
主人(先の従僕) 「ところでおまえはわたしとおなじ顔をしておるな」
従僕(先の主人) 「さっきまで鏡のなかであなたさまを演じておりましたので」
主人(先の従僕) 「なに!ほんとうか・・・」
(と、鏡をのぞきこむ主人。従僕はそのうしろにまわって背中を足蹴にする。あっ、といいながら、鏡のなかに落ち込む主人)
従僕(先の主人)だった男 「おっ・・・、ばかなやつ!(鏡のなかから、うらめしそうな目で見ている<主人(先の従僕)だった男>にむかって)これからはオレがずっと主人を演じさせてもらうよ。まあ、ときどきは鏡ものぞいてやるからよ(といって鏡の前から去ろうとするが足が動かない)あっ、どうしたことだ!」
主人(先の従僕)だった男 「ばかなやつ・・・。おまえはおれといっしょに自分自身をとじこめてしまったのだ。鏡よ鏡、この世でいちばんえらいのはだあれ?」
(主人(先の従僕)だった男 と 従僕(先の主人)だった男 に 観客もすべてたちあがり)
全員 「それはわたし!!!」

(騒然とする劇場内。不意にドアというドアがひらいて夏の海が流れ込んでくる)

・・・・・・こうして 波乗りの島は沈んでしまいました

ところで 岬の教会の神父は棺桶を船にしてひとり島を脱出しました この後神父はサーフボードの少女と出会って ふたりは新しいアダムとイブになることになるのですが・・・・・・(けれども それはまた別の話。) いまはただ船底の水を聖杯でかきだすばかりです こんな唄で調子をとりながら・・・・・・

 “いととはさみ いととはさみ
  ひとりは万人のために!
  ぬいばりまちばり ぬいばりまちばり
  ひとりなら万歳!”

輝かしい夏の光を束ねていた水平線がほどけると 海は急に暗くなります

銀色列車が ゆっくりと曲がりながら やってきました



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