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  追憶


ピカソの絵のおとぎばなし
に耳をかたむける
今夜は月が半分かけている

狭い門をくぐると
ひとり占いする女
古い木のテーブルの上
その手のなかの
おどろくべき神話

ランプのほかげを
女神たちに捧げる

 「むかし
  わたしに詩を教えてくれた
  おっさんの歴史
  を語ろうとおもうのだが」

森の中に踏み迷うと
月明かりが水面(みなも)照らす湖に
ちいさな象がすがたを映して
はかない人のことを
かんがえている
そのわきを通って
メッセンジャーは
薄氷を踏みながらやってくる
そのように美は
わたしをおそう

 「尊い聖者の
  祈りの言葉のように
  あなたのことを語れたら
  いいのに」

門の外の噴水のところ
少女がなわとびしてるのを
しゃがんでみている母親
の眼に青いバラの花をつめている息子
が船乗りの唄をくちずさんでいる

 「でも
  わたしのたましいは
  ずいぶん詩からはなれてしまった」

やがて
最後の船が出て行き
月も全部かけてしまうだろう

そしたら
テーブルクロスにされたピカソを
なぐさめてあげる



         (1998/01/29 08:06)