Anthology/すべては壁をとおり抜けてゆく

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  すべては壁をとおり抜けてゆく


純潔な少女がイロニーの荒海に沈む夜
雷鳴は謎の底に警告を轟かせた
(裏返された)首切り役人の礼儀ただしい魂が
存在に蓋をする・・・

壁の前に集まった群衆のなかから
茨の冠をした ひとりの男が進み出て
壁を抜けていった みると
らくがきがしてあった

  「わたしは真実を告げたのに 偽りの約束でむくわれた」

「おそらくそうだ でも
 ちがうかもしれん きっと」
老人の断言はいつも麻痺した逆説だ

  なにもかもがとおりぬけてゆくし
  なにもかもがあやしく光っている

少女はリボンとレインボウをつかんで
牢獄を崇拝する番人たちのまえで踊る
透明な記憶に嗚咽するおれの脳髄を
 「喪失の泉」と一般的に表記されるところの
清水で洗う

  もし きみがいなければ
  ほんとのことはなにもないよ

そう言いながら少女を鞭うつ
この 壁抜け女め! 壁抜け!壁抜け!壁抜け!

  率直にいって ワタシは肉食だし
  おのぞみなら やさしい烙印だってシテアゲル・・・

だまれ 壁抜け!壁抜け!壁抜け!

フラワーロードから北野町の異人館通りに抜けたところに
ジャズ喫茶「見張り塔」があった
二人はきまって奥の窓際に座った
いつもフロイトは身をのりだして囁いていた

  カール ぼくのアタマをのぞいてごらんよ 虹がみえるでしょう?

あんたたち いつとりひきしたんだい

  なんだ ミンナ共犯者じゃない

と少女は笑った

堕落した交渉のあと
蒼ざめた頬に髪が落ちる
シーツの地平線から熱い太陽が上る

  あ ミンナ抜けちゃった・・・

いつのまにか壁は消えていた
みんな家にかえった

と 碑文は読みとれた